金融緩和と、トヨタ株価と、その展望

(1)いわゆるアベノミクスにより、株価が上昇している。
(2)アベノミクスとはなにか?については、見解が色いろあるだろうが、そのうち、アベノミクス「第一の矢」である「金融緩和」に言及したい。
(3)次の記事は、「異次元金融緩和」と呼ばれる政策決定をしたという内容である。
黒田日銀が追加緩和を決定、「異次元の金融緩和」の意味を考える 2014.11.06
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20141106/423243/?rt=nocnt
(4)いわゆる通貨には2種類あり、硬貨と紙幣がある。硬貨は政府が発行(鋳造)し、紙幣は中央銀行が発行する。米国の中央銀行であるFRBについては、100%民間が保有するが、日銀に関しては55%を政府が所有し、45%を民間が所有する。
(5)日銀の証券コードは【8301】であり、市場で購入することができる。
(6)その一方で、日銀やFRBといった中央銀行は、BIS(Bank for International Settlements)の規制の傘下にあり、ある程度のコントロールを受けることになる。
(7)さて、金融緩和(QE/monetary easing)についてであるが、一般的に、政策金利を下げても景気が回復しない際に、通貨の供給量を増やすことを言う。
(8)日本政府は(正確には中央銀行である日銀は)、2001年から2006年まで金融緩和を行っていたが、その2006年の金融緩和終了に反対したのが安倍晋三であると言われる。
(9)したがい、安倍晋三は金融緩和に肯定的な印象を抱いていると言われ、実際に2012年に政権の座についてからは「アベノミクス 第一の矢」として金融緩和を再開した。
(10)当該金融緩和は、年間80兆円におよぶ金融緩和であり、「異次元緩和」と呼称される。その目的には消費税増税(5%から8%へ)を行っても景気が減速しないようにするためとも、インフレ目標(年間2%)を達成するためと言われた。(安倍晋三の言葉としては、インフレ目標を達成するため)
(11)金融緩和の方法とは、日銀が、市中銀行から、国債を買い取ることであり、買い取った金銭が、市中銀行当座預金口座に振り込まれる。
(12)しかし市中銀行の口座にある金銭(マネタリーベース)が増えたからといって、日本の場合は有望な投資先(または融資先)が無いので、社会に出回る金銭(monetary stock)が増えるという保証もない。
(13)金融緩和(monetary easing)で発生した金銭はeasy moneyと呼ばれるが、そもそも年間80兆円もeasy moneyが市場に出回っているのであろうか。
(14)まず、日銀券を大量に発行するのであるから、日本円(JPY)の価値が希釈されるという効果が発生する。したがい、円安誘導になり。輸出産業に有利であるという観測が発生する。
(15)しかし、トヨタ自動車が、工場を中国に8個も操業していることからもわかるように、輸出産業であっても、部品などは海外で組み立てられているという実態がある。したがい、部品は海外から輸入しているという企業はJPY安が有利に働くとは限らない。
(16)また、財源に関していえば、「社会保障のための消費増税」とされたが、社会保障(年金・生活保護)にはわずかしか充当されておらず、実際には法人税減税に充当されているという現実がある。
(16)また、アメリカ政府からも、指摘されていることであるが、アメリカ合衆国で行われているSales Taxと異なり、日本の消費税は付加価値税(VAT)の形式を採用しているので、輸出すると「輸出戻し」という名目の(実質的な)「輸出奨励金」が発生する。この「輸出戻し」がGATTが違法と規定する「輸出奨励金」に該当するか否かは、日米間で常に議論となるところである。少なくとも米国からは(実質的な)「輸出奨励金」とされ、「非関税障壁」と認定されているのであるから、廃止をするべきと考える。もし、消費増税を「財源確保」のために行うと標榜するのであれば、「輸出戻し」は廃止するべきであろう。いずれにせよ、現行法では、輸出産業と目されているトヨタ自動車などに「消費増税」が有利に働くのは事実である。
(17)まず、現在の経団連が輸出産業中心であるという事実があげられる。したがい、アベノミクスの結果として発生する円安誘導は経団連の利害とも一致するということになる。
(18)安倍晋三は、消費税増税(8%から10%)への景気条項削除を明言したが、いくら内需がボロボロであっても増税するというわけである。これは、消費税が、赤字であっても支払わなければならない性質の税金であるという性質を勘案すると、廃業などの原因ともなりうる増税であるとかんがえる。
(19)さて、日本は、対GDPで約240%の債務残高があり、歳出の約25%が国債の償還に充当されている。

(20)たとえば、債務残高の基準として、ユーロに加盟するには債務残高が対GDP比60%未満であることが要求されるが、ギリシア粉飾決算デリバティブを使って行った(民間企業でいうところの「飛ばし」を行ったわけである)。そういった国際基準から考えると、日本の対GDP比債務残高240%というのは、かなり巨大であるということがわかる。
(21)さて、安倍晋三総理は、インフレ率2%を目標にして、年間80兆円の「異次元金融緩和」を開始したわけであるが、実際のところ、インフレ率は、0.36%にとどまり、前年度から12位上昇しただけである。いずれにせよ公約であった2%のインフレ率を達成できていない時点で、「アベノミクス第一の矢」である異次元金融緩和は失敗したということになる。

(22)そもそも金融緩和(monetary easing)の目的は、市場に出回る金銭(monetary stock)を増やすことであるが、年間80兆円の金融緩和をやったところで、monetary stockは5%しか増えていないという指摘がある。
(23)では5%しか、増えていないのに、かつて対USDで80JPYだったのが、現在、約120JPYになったという5%以上の通貨レート変動という現象を、どう説明するのか?
(24)かつてJGB(日本国債)の6割は年金資金が保有していた。しかし安倍政権になって、よりリスクが高い株式投資に、年金資金を投じることになった。年金資金は130兆円であるが、かつてはJGB(国債)が主体だった年金運用を、国内株を買うために投入するわけであるから、JGB(国債)の買い入れ比率は減少した。
(25)したがい、JGBの金利は多少、上昇しはじめているというのが現実である。
金利マーケットアイ〕超長期債利回りに上昇圧力、20年債・40年債入札意識
〔金利マーケットアイ〕超長期債利回りに上昇圧力、20年債・40年債入札意識 | ロイター
また、すでに、3年後〜5年後にかけて、JGB が落ちることを前提にしたファンドも商品化されている。

(26)日本政府の債務残高が改善される見込みもないので、JGBが持つリスクが、JGB売り圧力に加わり、またアベノミクスと称する経済政策でJGB中心のGPIF(年金資金運用)から国内株中心に行こうしたということは、さらにJGPの価格下落を惹起する。そのことは、JPYをJGBで保有している機関投資家が多い現状では、JPYの下落につながる。
(27)monetary easing で得られたeasy moneyは国内に運用先が無いので、当然ながら、より高利回りな、BRICs債や米ドル債、リラ債、AUD債に向かうことになり、円売り外債買いの傾向を強める。これも円安の要因となっている。国内ではなく国外で外貨に変えられたeasy moneyが流通するのである。
(28)したがって、現在の「円安」の主因には、安倍政権による「年間80兆円の金融緩和」、および「JGBが持つリスク要因」の、2つがあり、とりわけ国内からの資本異動(capital flight)の影響も強い。
(29)現在、株価(TOPIX、nikkei255)が上昇しているが、外国人投資家から見れば、日本株は、円安であるがゆえに、割安である。もっといえば、金利が低い日本の金融機関でJPYを借りて、日本企業を買収することも外資にとっては、しやすくなっている。

↑2014年のダボス会議で、日本への投資を呼びかける安倍晋三
(30)さて、(安倍晋三総理は2014年のダボス会議で外国人投資家に日本への投資を"buy my abenomics"と呼びかけたが)日本株や日本企業が外資に買収されることが(安倍晋三総理が主張するように)良いことなのか否かは別にして、JPY安が外国人機関投資家が日本の株式市場に投資しやすい環境を作っているのは客観的な事実である

(31)しかし、上述のJGB売りを中心にした機関投資家が存在するように、やはりJGBに内在するリスクは、JPYでの投資を躊躇させるに充分である。
(32)また、日本企業は、有利子負債の割合が高く、金利の上昇が発生すれば、利払が増えるゆえに経営を圧迫されるという潜在的リスクも高い。
(33)年金資金で購入されて維持されている株高(とりわけNikkei255)であるが、タマ(購入資金)が尽きた持点で、下落も予想される。
(34)ちなみに、トヨタ自動車の配当は、以下のとおり
http://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/4171303/
平成26年9月30日(75円) 平成25年9月30日(65円)
すなわち年間配当は140円である。
(35)したがい古典的な収益還元法でいえば2800円が適正価格ということになるが、株価というのは市場で決まるものである。実体価値と株価の乖離をバブルというが、当該株式を年金資金が購入しているとすれば、その価格の説明はつく。4月10日の終値は8326円である。

(36)安倍晋三氏が今年9月の総裁選挙で再選されれば、当該政策(金融緩和と、年金資金による株価維持)は継続されるであろう。しかしながら、先日の米国FOMCが6月のUSD金利あげを示唆したことを考えると、資金が日本国内株ではなく米国市場に戻る可能性が高い。
(37)また、現在のユーロ安を受けて業績が上昇するとされている欧州企業に投資するが、ユーロ安の為替リスクをUSDでヘッジする商品も米国で販売されている。実際に「ウィズダムツリー・ヨーロッパ・ヘッジド・エクイティ・ファンド 」の時価総額は112億ドル(約1兆3300億円)と1年前の10倍以上に膨らんでいるという。
(参考)http://www.bloomberg.co.jp/news/123-NK7IW16JIJUO01.html
したがって、現在の日本株高(Nikkei255高)が、いつまで継続するかは未知数であるといわざるを得ない。